• 解説 停止世界

    『時間停止』の発動によって時間が止まった世界。時間や空間に影響を受けずに移動する“情報子”を観測することによって、観測することができ、また自身を構成する全ての物質を“情報子”に変換することによって“停止世界”内で動くことが出来る。
    逆に言えば観測あるいは動くことが出来なければ、抵抗すら出来ずに、傍から見れば一瞬で倒されてしまう。
    弱者の足切りとしては残酷なほどに有効な手段であるが、“情報子”を自在に操れる者に対しては発動する意味がなく、維持するだけ無駄なエネルギーを消耗するため、最上位者同士の戦いでは逆に使用されない。

    そんな“停止世界”内の戦闘では、“情報子”を制御して移動や攻撃を行うため、争点は“情報子”への干渉力となる。また“情報子”以外の全ての物質が停止しているため、魔素を用いる魔法が発動できず、物理的結合力が全て喪失しているため“停止世界”に適応できない全ての防御力がゼロとなる。一方で、“魂”のエネルギーを用いる自身の能力(権能)であれば“停止世界”においても使用することができるものもある。

  • 解説 情報子

    霊子よりも光子よりも小さな、世界の根幹に通じるような特殊な粒子。 “情報子”は時間や空間に影響を受けず、“情報子”同士の情報転写(時間差ゼロ)によってあらゆる地点に情報を伝えることができる。
    この性質から“情報子”は“停止世界”で唯一移動する物質となっており、これを観測することでその存在を認識し、干渉することで“停止世界”内で視界の確保や思念の伝達が可能になる。更に“停止世界”内で動くためには、自身も“情報子”で構築されている必要があり、精神生命体であれば全ての物質を“情報子”へと変質させることで、情報生命体(デジタルネイチャー)へと至り、“停止世界”で動くことができるようになる。

  • 解説 情報生命体 / デジタルネイチャー

    精神生命体(エネルギークリーチャー)が自身を構成する全ての物質を“情報子”へと変質させることで至る、至高の領域の存在。“情報子”を自在に操り、“情報子”のみが移動できる“停止世界”を自由に動くことができる。
    マサユキの権能『英魂道導』で召喚する“死せる英雄”はこの情報生命体と同質の存在である他、特筆して演算能力が高い訳では無いダグリュールやヴェルドラも“停止世界”で動くことが出来ていたことなど、今後その存在については更なる言及がなされると思われる。

  • 解説 魔王・勇者・監視者

    人類が増長したら、それを窘めるのがギィを筆頭とする魔王の役割。魔王達がやり過ぎぬように抑止力としての勇者が存在する。監視者は、この魔王と勇者の因果関係が正しく作用しているか調査する役目を担う。

    <地上の監視>
    堕天族三柱は人の世を調査すべく放たれた、特殊任務に従事する者達。ヴェルダナーヴァの意思によって、人類が滅ばぬように監視する役目を担っていた。

  • 解説 能力 / スキル

    スキルを獲得するには、その者の願いが影響する。物質体、精神体、星幽体のいずれかに宿るのが一般的だが、特殊なもの(究極能力など)になると“魂”そのものに宿るようになる。その者の本質に近づくほど大きな願望に由来するため、“魂”に宿ったモノの方が強力な権能になる。(隠しやすく奪われにくいという点からも強力)

    根付き方にも心核や三位体(物質体、精神体、星幽体)に“宿る”場合と、魂に“刻まれる”場合の二通りあるが、例外として魂に“宿る”場合(究極付与など)もある。敵からスキルを奪う権能(『強欲之王』など)もあるが、それは“宿っている”場合に限られ、またシエルの場合はリムルの“魂”と完全に同化してしまっているため、分離しようと思っても不可能になっている。

    究極能力(アルティメットスキル) …
    ヴェルダナーヴァが世界を管理するために創り上げたシステム。管理者権限があれば代用できる。より便利に特化した権能は、神の如き力を行使可能。条件次第では死者蘇生すらも可能。

    天使系スキル …
    ヴェルダナーヴァが創出した純粋な能力。資格ある天使たちにも与えたが、自我が弱く究極能力を扱えない者もいた。譲渡しなかった権能は解放された。
    天使系には、絶対命令の“支配回路”が組み込まれている。これにより天使長たる『正義之王』からの命令には逆らえないようになっている。

    悪魔系スキル …
    純粋な権能(天使系)に対してそれを模倣して生まれたスキル。
    天使に対して悪魔が生まれたように、天使系スキルに対しても、悪魔系スキルが発生した。また模倣とは言え劣化版という訳ではなく、本家と同等の権能を有している。

    七大罪から進化した大罪系

  • 解説 究極の領域

    重要なのは意志力。意思の力だけで存在しているような精神生命体ならば、究極能力がなくとも究極の権能に対抗できる。
    神話級の武具に認められれば、精神生命体と同等の存在になれる。

    神性 …
    寿命のなくなった精神生命体にしか獲得できない特質。条件として存在値200万程度を有している必要があるが、神性を帯びることでその肉体は神話級の武具に匹敵するほどの強度を持つ。

  • 解説 冥界門

    異界と基軸世界を結ぶ特殊な力場。地獄門とも。世界各地に幾つか存在し、それらは悪魔族が管理する役割を担っており、彼らは冥界門を中心として勢力圏を拡大していた。ディアブロ(原初の黒)が他の悪魔(白・紫・黄)を勧誘した際にそれぞれ破壊したため、現存するものはカレラ(原初の黄)が守護していた壊れかけの冥界門のみとなっている。
    「あんなもの、ない方がいいのですよ」とはディアブロの言。

  • 解説 果ての世界

    別名、“時空の果て”とも。
    遠い未来、時間と空間の終わりが交わる場所。時間の流れは止まり、空間の広がりは終息し、エントロピーの法則に従い虚無へと至った、世界の終わり。

  • 考察 ヴェガってイヴァラージェに似てない?
    • イヴァラージェ=ヴェガの成れの果て説
      ── ヴェガってイヴァラージェに似てない?

      先日発売された転スラ20巻ですが、内容は簡単に言ってしまえば、Web版の「vsダグリュール」と「迷宮への侵食」のリメイクとなりました。新規のキャラクターや特徴的な単語は登場しませんでしたが、その分既存のキャラクターに焦点を当てて深掘りした巻だったのかと思います。
      しかし、リメイクと言っても、これまでの書籍版で大きく変更があった天魔大戦の流れを組み込む訳ですから、それなりに違う点もありました。その中でも、一番のWeb版との違いとして、「あれ、ヴェガの『邪龍之王』は“竜種”へと進化しないんだ?」と不思議に思った方もいると思います。
      今まで醜くも生に執着してきたヴェガという男が、死ぬことも許されない“無”に置き去りにされるという20巻迷宮侵蝕編の終わり方は、一見自然に見えますが、Web版ではソレが“竜種”へと進化し、新たな“地帝竜”という5番目の竜を生み出すきっかけになるということを知っていれば、ヴェガの結末は少し物足りなく感じるようなものでした。

      あれだけ生き汚く逃げ続け、最後にはフェルドウェイと並ぶのは俺だと豪語していた彼はこれにて“おしまい”なのでしょうか?確かにヴェガの命運はおそらくここで終わりなのでしょう。何度も運が尽きたと言われているので、これが覆って復活というご都合もないと思われます。
      しかし、彼は“おしまい”でも彼の肉体と権能はどうでしょう?
      人間は外部からの刺激なくては異常をきたすようにできているらしいです。肉体は人外の域にある彼ですが、アリオスのように精神はまだ人の域を出てはおらず、完全なる“無”の中にいればその人格はたちまち崩壊してしまうことは容易く想像できます。逆に言えばその屈強な肉体は朽ちることがない訳で、自我の失われた不滅に近い空っぽの強靭な肉体が残るだけになります。そんな存在、どこかで見覚えないでしょうか…?

      これは例えばの話ですが、彼が跳ばされた“無”が、天地開闢前の“無”だったとしたらどうでしょうか。ヴェルダナーヴァが他次元並列世界を創造した時には既に、“彼”は存在していたとしたら、人はそれを悪鬼羅刹の一体と数えるのではないでしょうか。
      回りくどい言い方になってしまいましたが、私が言いたいのは、自我を失くしたヴェガが成れ果てた姿こそ、“滅界竜”イヴァラージェなのではないか、という考察です。もっと言えば、彼の『邪龍之王』がその肉体を乗っ取った姿なのではないでしょうか。それこそ、ルドラを乗っ取った『正義之王』のように。

      ヴェガとイヴァラージェに共通する特徴はかなり多くあります。まずその名前ですが、彼の『邪龍之王』の権能には、正直『龍』要素はありません。にもかかわらず『邪龍』とあるのは、本質的には『邪龍』ということなのだと思います。そうであるならば、『邪龍之王』が乗っ取った肉体が“滅界竜”と呼ばれそうな見た目を象るように変化したとしても何ら不思議ではなく、むしろ辻本があっているように見えます。
      そして『邪龍之王』の権能である『邪龍獣』。Web版から登場する『邪龍獣』ですが、『邪龍』に似せた『獣』を生み出すという意味で、『滅界竜』イヴァラージェと『幻獣族』の関係と非常に酷似していると言えます。またその容姿も、おぞましい異形として描写された『邪龍獣』に対して、幻獣族はその直接的な描写はないものの“神の失敗作”と称されています。能力も幻獣族が攻撃力より防御力の方が優れているという点やあまり群れることがないという特徴から『邪龍獣』とも似ているように思えます。
      何より幻獣族の中から突然変異のように生まれた、蟲魔族の祖であるゼラヌスが、ヴェガがイヴァラージェの元となったとすれば、ヴェガがかつてゼラヌスの肉体を喰らって力を得たことを考えると、ゼラヌスがイヴァラージェから生まれたことにも説明ができるようになります。
      またイヴァラージェの特徴として忘れてはいけないのが、異界に満たされたイヴァラージェの魔素によって肉体を持つ者は汚染されてしまうということです。迷宮でのヴェガは、ゼラヌスの暗黒細胞と融合したことで強化された魔性細菌を垂れ流し、空気中に満たすという戦法をとっています。無論、この細胞片は『邪龍之王』の影響下にあれば『有機支配』を受けると思われます。長い時間をかけてこの空気を吸い続けるとなると、汚染されて変質してしまうこともあり得そうです。これがイヴァラージェの魔素の正体であれば、異界で天使が妖魔にまで変質してしまうことにも納得がいきます。

      Web版では“竜種”モドキになったこと、自身を劣化させたような獣を生み出すこと、ヤツから突然変異のようにゼラヌスが生まれていること、ヴェガも自身の一部を空気中に散布するようなことを行っていたこと。
      ここまで要素が揃っているとかなり信憑性も高くなるのではないかと思うので、ここからはこの考察が正しかったらの仮定の話をしようかと思うのですが、まずそもそもイヴァラージェとは誰が付けた名前なのでしょうか?おそらくソレを滅ぼさない方針をとったヴェルダナーヴァだと思うのですが、その名づけはナニに対してだったのでしょうか?私が予想するように、イヴァラージェがヴェガの肉体を乗っ取った『邪龍之王』だとすれば、イヴァラージェとは『邪龍之王』に与えられた名前になっちゃうと思うのですが…どうでしょうか。
      今はまだ自我らしい自我もないとのことですが、19巻で“魂”を得て覚醒に入ったとのことなので、いよいよ自分のことを『邪龍之王』から進化した神智核:イヴァラージェと認識し出すのではないでしょうか。
      ヴェガはこれまで大いに力を増して来ましたが、その中にはまだ“魂”を取り込むことによる魔物的な進化はまだありません。邪神への進化を経て、そしてその肉体もまた更に大きく変化することになると思いますが、その本質的な部分にまで遡るとそれはユウキの手で作られた疑似人造粘性体(イミテーションスライム)といえます。以前の私の考察でも述べましたが、天魔大戦の早い段階で退場したユウキですが、やはり転スラのラスボスは彼で、その力の溝を埋めるためにも“滅界竜”イヴァラージェの力を手中におさめるのではないかと今も考えています。具体的にどのように両者が接触するかは全く想像できないですが、もし仮にユウキがイヴァラージェの解析を試みれば、様変わりしてはいるものの自分が作ったものであるヴェガの肉体をその天才性で掌握し、神智核:イヴァラージェをも自身のサポートとして従えるのではないでしょうか。それこそWeb版のユウキと神智核:ヴェルダの関係のように…

      ここまで来ると考察というより妄想に近くはなってしまいますが、思ったより自然に辻褄が合ってしまったので、ラスボス予想にも繋がる話として語らせていただきました。
      最後になりますが、この考察のダメなところは、幻獣族のクマラに対してその関連性を一切言及できなかったというところにあります。“親越え”を一つのテーマにしている21巻で、イヴァラージェとは何かしらの縁があるクマラとヴェガに一切触れられていないのは、やはり関係がない、つまりイヴァラージェとヴェガにも関係がないという見方もできます。
      まあですが、個人的な感想を言うのであれば、あれだけ文章量を割いたヴェガの最後をアレだけで終わらせるというのは、あっけなさを演出する分にはいいですが全体の進行度を考えれば、少し考えづらいとも思うのです。
      ヴェガが最後に抱いた破滅思想は“無”の中に消えるのか、それとも細胞にまで染みついて広がり、いつか“悪意の化身”として目醒めるのか──

  • 考察 クロエのループとはなんなのか?
    • 時の輪廻についての考察
      ── クロエのループとはなんなのか?

      クロエのループとは、書籍で言えば11巻と12巻で話題になる、戦いの最中に2000年前の過去に跳ばされたクロエとヒナタがどのような過去を経て現在覚醒し、また過去にどのような未来を経験したのかという、過去・現在・未来を行き来した彼女の旅の物語です。
      このクロエのループは、未来で敗北したクロエ(クロノア)をリムルが過去に跳ばし、その未来を変えようとしたことから始まります。Web版では、このループは勇者育成プログラムとも呼ばれており、文字通りクロエを強く育成し、悲劇を回避することを目的としていると言えます。Web版と書籍版ではその終着点は少し異なりますが、どちらも2つの勇者の卵を獲得し最強の勇者として覚醒するに至っています。厳密にはループではないとのことですが、ただでさえ分かりにくい話であることに加え、理解する上で特に留意すべきポイントでもないのでこの際ループと考えても問題ないです。

      この話をする前に、前提知識として転スラ世界の設定について少しお話します。
      転スラの世界は創造主であるヴェルダナーヴァの手で創られましたが、創られた世界はひとつではなく複数、それも多種多様な顔を持つ異世界たち(多次元世界)でした。具体的には、物語の舞台となる基軸世界から、転生前の世界、悪魔が支配する冥界、そしてそうした世界の狭間の空間である異界など、実にさまざまです。しかし、そういった異世界は存在する転スラですが、パラレルワールド(並行世界)は存在しないとされています。
      歴史の中で分岐し、あり得るかもしれないもう1つの歴史。SF作品ではタイムスリップ(時間旅行)の解決法として描かれるパラレルワールド。これが採用されていない転スラでは、過去に大規模な改変があった場合には、その改変は取り消されることなくその結果が残って歴史になります。言い換えれば改変がなかったそれまでの歴史は、改変が起こった歴史に上書きされることになります。クロエはこの歴史の上書きという行為を、過去に能力と記憶を跳ばすという方法を通して、永遠に繰り替えしていました。そのため、ループを同じ道を巡り続けることを言うのであれば、クロエの旅は道を更新し続けたと言えるため、厳密にはループではない、ということだと思います。詳しくは時間旅行のパラドックスや親殺しのパラドックスなどで調べてみると良いと思います。
      そしてパラレルワールド(並行世界)がないこととは別に、転スラ世界はタイムスリップ(時間旅行)も許容しておらず、SF作品でよくある過去や未来の自分と出会う展開、言い換えれば同一人物が同時代に2人存在する展開なんて状況は、世界の強制力によって回避されます。
      この2つ、パラレルワールド(並行世界)とタイムスリップ(時間旅行)について、転スラでは本来縁遠いものだと認識していただいた上で、本題に入りたいと思います。

    • 図解.png
    • ループの始まりについて、詳しいことは分かりませんが、ループの流れからもクロエの敗北が発端だと考えられます。敗北したクロエ(クロノア)は死の間際、リムルの手によりその精神と記憶を過去の幼いクロエに向けて跳ばされます。この幼いクロエというのが、リムルに連れられて精霊の棲家を訪れた時のクロエになります。他の子どもたちは精霊の棲家で上位精霊を身に宿すことになりますが、幼いクロエはここで未来の自分の精神と記憶を宿し、ユニークスキル『時間旅行』を獲得することになります。
      その後、幼いクロエはリムルと別れ、紆余曲折の後にヒナタの死をトリガーに発動した『時間旅行』に巻き込まれる形で、2000年前に時間跳躍することになります。過去に跳んだクロエは時間跳躍の際に巻き込んだヒナタの魂と共に、ルミナスと親交を深めながら勇者として成長していきます。
      そして今から300年前、幼いレオンとクロエが異世界人としてこの世界にやってきます。この時、クロエが同じ世界に2人存在することになるのですが、先述した同一人物が同時代に2人存在することを許さない世界の強制力により反発作用が生じ、勇者クロエは意識が別人格のクロノアと入れ替わり、この世界にやって来たばかりの幼いクロエは300年先の未来に跳ばされます。そして入れ替わりが起こったクロノアは、身体の支配権を譲られたヒナタに抑え込まれ、シズをレオンの居城から救った後に同様の理由で、つまりこの世界にやってきた坂口日向と存在が重複したことによりヒナタが眠りにつくと、その身体ごとルミナスの手で聖櫃に封印されることになります。
      それから数年後(300年先の未来)に召喚された幼いクロエは自由学園に引き取られ、リムルと出会い精霊の棲家で未来の権能を宿し、ヒナタの死をトリガーにまた2000年前に時間跳躍します。そして同じ世界に同じ人物が重複するという制限がなくなったクロノアは封印から解かれギィと戦い敗北。死の間際にリムルが過去に跳ばす。おそらくこの時、時間軸(世界線)が変わり世界が作り変えられているのだと思います。あとはこの繰り返しです。これがいわゆる失敗ルートと呼ばれるものです。

      ではなぜ、この失敗ルートが無限に続いていくことになっていたのか?
      まずこの未来から過去に受け継がれる『時間旅行』と言う権能の効果は、先述したヒナタの死をトリガーに2000年の時間跳躍を行うというものですが、“過去”にあったことを思い出すという効果もあります。ここで言うクロエの“過去”には、これまでのループの経験、つまり“未来”の記憶が含まれます。しかし、時間跳躍を行うまでの間は何も思い出すことができず、2000年前に跳躍した時点でようやく思い出すことができるようになるのです。そこから初めて歴史を変えるように働きかけることができるのですが、大きく変えると跳躍する前の状況を再現できなくなるため、基本的に2000年間前回の歴史をなぞり続け、結果として何も変わらない失敗ルートを永遠に続けることになったのです。
      そしてこの失敗ルートから抜け出すきっかけになった出来事というのが、幼いクロエが精霊の棲家で未来の記憶を少しだけ思い出した、ということです。これによりヒナタが死亡するまでの物語は大きく変わり、結果として失敗ルートを抜け出すことになりました。少しだけ思い出したクロエがしたことは、ひとつ。『空間移動』で魔国連邦に帰るリムルを引き止め、帰るタイミングを少しずらした、これだけです。これにより、リムルとヒナタは遭遇することになり、物語は本編となる成功ルートへと入っていきます。では、タイミングをズラさなかったそれまでの失敗ルートはどんな話になっていたのか、という話が書籍の11巻と12巻で描かれていますので、気になった方は読んでみてください。

      最後に、この世界の綻びを許さない強制力が働く中で過去と現在を行き来し続けた物体、“抗魔の仮面”について少し触れてみます。
      製作者すら分かっていないこの“仮面”は、シズ、リムル、クロエを通して過去から未来、未来から過去に受け継がれる“仮面”です。その特異な性質により積み重ねた時間厚は無限に等しく、原初の黒すらも弾き飛ばす異次元のアイテムになっています。そんな“抗魔の仮面”にヒビを入れたシズとリムルの出会いの一件は、原初の黒に特異点と呼ばれ、その解明は原初の黒がリムルに心酔する理由にもなっています。
      “時間厚”とは、物理学や哲学で用いられる概念で、時間が持つ厚みや深さを表す言葉です。これが使われるまでは、私は“仮面”が過去にあって未来にもあるという性質を帯びており、それによって現在は破壊されない、つまり攻性要素を弾いたと解釈していました。そのためヒビが入ったということは、それより先に仮面に未来はない、つまりループの脱出を表していた、と考えていましたが、理由が“時間厚”らしいので、よくわからなくなりました。
      皆さんはどう思いますか?
      もうこの話が本編で掘り下げられることはないかもしれませんが、気になるところですね。

  • 考察 滅界竜イヴァラージェはどこで生まれたのか?
    • イヴァラージェの生誕地〇〇説
      ── 滅界竜イヴァラージェはどこで生まれたのか?

      “滅界竜”イヴァラージェとは、書籍版で新たに追加されたキャラクターです。
      どこで発生し、どこからやって来たのか不明。“竜種”に匹敵する実力を持ちながらも知性・感情がなく磯疎の疎通も不可能。のちに封印された位階にて、生み出した幻獣族の王となった災禍の化身。これが18巻までのイヴァラージェに関する情報でした。
      しかしその認識は、19巻の巻末の2ページで大きく変わることになります。

      イヴァラージェは捕食した妖魔族の死骸から“憎しみ”の感情と万を超える“魂”を獲得し、進化の眠りに就きます。この一連の流れでは面白い表現が幾つもなされていますが、中でも興味深いのは悪意の化身という表現です。ここで使われた悪意の化身という言葉は、Web版で用いられた悪徳の意思を連想させます。そして、この悪徳の意思こそアンラ・マンユとルビ振られたユウキと共にラスボスとしてリムル達の前に立ちはだかった存在です。

      イヴァラージェとアンラ・マンユ。

      同19巻の冒頭ではユウキが退場しており、これはイヴァラージェの動きと時系列的にも同じタイミングの出来事と言えるため、やはりイヴァラージェをアンラ・マンユに代わる存在として、ユウキと紐づけて考えることは当然のように思えます。以下の『イヴァラージェの生誕地〇〇説』は、そんな関係性に説得力を持たせることになるかもしれない仮説になります。


      転スラの世界には創造神がいます。
      名をヴェルダナーヴァといい、彼が多次元並列世界を創造したとされています。
      神話や宗教ではありきたりな創世神話ですが、それらと転スラの決定的な違いは、ヴェルダナーヴァ(創造神)の生誕地が在るという点にあります。大抵この手の話の創造神が誕生した場所は虚無や混沌、卵だったりと特定の場所を指すことはありません。なぜなら全てを創造したという創造神の全能性に矛盾が生じるからです。
      ではヴェルダナーヴァの生まれた場所、天星宮は誰が創ったのか?
      …という疑問はありますが、ひとまず置いておき、
      これに加えてもう一つ、ヴェルダナーヴァが全知全能という訳ではなかったと思われる記述があります。それは、イヴァラージェの存在です。彼は、イヴァラージェがどこで生まれたのか、知らないのです。のちにヴェルダナーヴァは全能を捨てることになるのでその後のことは知らないだろうと言われればそうですが、私はここに考察ができる余地があると思います。

      イヴァラージェはどこで生まれたのか?
      魔王と勇者、悪魔と天使といったように転スラが陰と陽の対比を多く描いていること。18巻にて、イヴァラージェの発生地についてフェルドウェイが「宇宙の彼方なのか、次元の果てなのか…」と憶測しており、読者の焦点を遠くに移そうとしていると思われること。創造神の生誕地である天星宮が球体の内面に存在する平面世界で、大地と天空で上下半分に分かれていること。
      これらのことから、ヴェルダナーヴァは天星宮の地上部分に、イヴァラージェは天星宮の地下部分にそれぞれ誕生していたのではないでしょうか。自分と同時に生まれたからこそ知り得ず、足元に眠っていたからこそ気づけなかった。

      19巻にて、リムルは“竜の因子”を獲得し、ヴェルダナーヴァに匹敵するきっかけを得ました。それと同時期にイヴァラージェは意思を獲得し、新たなる脅威へと進化を開始しました。ここに影の主人公ともいえるユウキという要素が合わさるのは道理ではないでしょうか。
      魔王への進化の祝福を得たリムルの配下と、邪神への進化の祝福を得たユウキ率いる幻獣族。もしくはリムルの更なる進化も合わさった構図も見られるのではないでしょうか。

  • 考察 リムルの転生っておかしくない?
    • リムルの特異性についての考察
      ── リムルの転生っておかしくない?

      転スラの世界には、異世界人と転生者が混在しています。
      異世界人とは、転スラの舞台となっている世界(基軸世界)の外の世界からやってきた者たちを、転生者とは、死後に輪廻の輪を経て再び生を得た者たち、意思が強く記憶の一部を保持している者を特にそう呼称します。
      この異世界人でありながら同時に転生者でもあるのが、主人公リムル=テンペストとなります。彼は異世界でその生を終え、生前の記憶を丸ごと保持したまま基軸世界で転生し、新たな生を歩み始めます。

      異世界人は一度世界を渡る際に特別な力を獲得することが多く、特に召喚術師などによって意図的に呼ばれてやってきた異世界人(召喚者という)は100%の確率で獲得するとされています。
      これは、界渡りの中で一度滅びた肉体が再構築される際に取り込んだ、大量の魔素(エネルギー)が元になっており、多くの場合はユニークスキルというカタチになって異世界人に宿ることになります。
      異世界人であるリムルも例に漏れずユニークスキルを二つ獲得しており、それらは一匹のスライムに過ぎなかったリムルを大きく成長させる基盤になりました。

      しかし思い出してほしいのですが、彼がユニークスキルを獲得したのはいつだったでしょうか?上述したように世界を渡った際に取り込んだ魔素をもとに獲得していたでしょうか?
      いいえ、彼がユニークスキルを獲得したのは、界渡りする前、もっと言えば事切れる前に“世界の言葉”によって獲得してしまっています。その様子は“獲得した”というよりも“与えられた”と表現する方が相応しいと思えるほど一方的なものであり、見方を変えれば既に決定事項をなぞるように“世界の言葉”に導かれたとさえ言えてしまうようなものでした。

      彼が特殊だという話をし出すとキリがありません。
      異世界人として、スキルの獲得の過程がおかしいと言えるならば、
      転生者として、前世の記憶の残り方がおかしいという話もできます。
      先に述べたように、転生者とは意思が強く前世の記憶の一部を保持している者たちの呼称です。これは“魂”の強さの問題であり、精神生命体である悪魔族ともなればその記憶や自我をまるごと残すことが可能です。
      界を渡っての転生すら珍しい上に、通常なら“魂”だけで界を渡ると、“魂”が分解され記憶を失うことになります。そのため完全な記憶を残して魔物となって生まれて来るなど、ヴェルドラの知る限り事例はないほどに希なケースであり、ギィ曰くそれだけで心核も鍛えられるだろうとのこと。
      似たケースに、マリアベル・ロッゾとヴェノムが挙げられますが、やはり彼らも作中では特殊な存在として描かれています。

      また、その“魂”の強度に関してだけでなく、その質についても何度か言及されています。
      彼に心酔している“原初の悪魔”の一柱であるディアブロは、その“魂”の輝きを見惚れるほどと評し、元“始原の天使”の一柱であるディーノからは懐かしさを感じさせつつもヴェルダナーヴァとは全く違うとも評されています。

      そして、その発生の由来が関係しているのか、その肉体が“暴風竜”と“灼熱竜”の因子に問題なく適合できていることも地味にですが彼の特異な点の一つとして言えます。“竜の因子”とは、聖人に至っている勇者ルドラの肉体を用いても、ミカエルが獲得した直後には五ヶ月以上の休眠を必要とし、常に権能の効果で保たねば崩れてしまうほどの大きすぎる力です。
      リムルの他にも、フェルドウェイ本来の肉体であれば、“竜の因子”の力をその血肉に変えることができているようですが、その肉体は創造主であるヴェルダナーヴァが創った特別製と言えます。
      リムルのスライムの肉体は、リムルの前世の死因が出血多量であることから“世界の言葉”が“血液が不要な身体”として作成したものです。“世界の言葉”とは世界の法則そのものであり、それに肉体を作成されるなど前例もないような事例であることは想像できます。その特異性から言うと、ヴェルダナーヴァお手製の肉体よりも器としては優れていると言えるほどのものなのかもしれません。

      今回は彼のスキルの獲得の過程、前世の記憶の残り方、“魂”の質、肉体の強度について、その特異性を考えてみました。物語が進み、転スラ世界の常識がだんだんとわかっていくにつれて、リムルの特異性もまただんだんと浮き彫りになっていっています。
      最終巻が出る頃には、彼はどこまで特異な存在として描かれることになるのでしょうか。

  • 考察 なぜエレンはミリムのお伽話を知っていたのか?
    • エルフの歴史・サリオンの起源についての考察
      ── なぜエレンはミリムのお伽話を知っていたのか?

      ファルムス王国の異世界人らによって魔国連邦の民が殺害された際、絶望するリムルに助言を与えたのは、以前より懇意にしていた冒険者のエレンでした。
      彼女は自身の素性を明かすと共に、故郷である魔導王朝サリオンに伝わるお伽話を話し、それをヒントにリムルは“真なる魔王”への覚醒と“反魂の秘術”を無事に成し遂げます。
      彼女の話したお伽話とは、竜皇女であるミリム・ナーヴァが魔王として覚醒するまでの過程そのもの、つまり2000年前に実際に起きた出来事でした。
      魔導王朝サリオンの絶対君主である天帝エルメシア、その従妹にあたるエレンですが、なぜそのような過去の出来事をエルフである彼女が知っているのでしょうか。

      エレンの話したミリムのお伽話とは、大まかに以下のような内容でした。
      ── 友である小竜を殺害されたミリムが、それを企んだとある王国の国王と十数万人の国民諸共一国を滅ぼし、“魔王”へと覚醒する。それに伴い小竜は復活するが混沌竜へと変貌してしまい、のちに彼女自身の手で封印された。 ──

      この“とある王国”とは、超魔導大国という実在した王国でした。
      風精人(ハイエルフ)の王が治める耳長族(エルフ)の国家。風精人とは、耳長族の先祖ともいえる種族であり、さらにその大元である真祖こそ、天帝エルメシアのママであるシルビアという人物になります。ミリムによって滅ぼされた超魔導大国でしたが、生き延びたエルフの民は散り散りとなりそれぞれが別の道を歩き始めます。
      ① エルフの祖を頼った者達
      ② 荒野を切り開き国を興した者達
      ③ 隠れ潜むように逃げ延びた者達
      ④ 呪われて黒妖耳長族となり新天地を目指した者達

      ①の“エルフの祖”というのは、言葉通りシルビアを指しているのではないかと考えます。
      そして合わせて、②の国を興した者達について。現在エルフの国家として存在しているのは、魔導王朝サリオンのみ。このサリオンは王朝とあるように十三の王家をエルメシアが束ねて統治を行っています。またこの王朝が興った時期もお伽話と同じ2000年前とされています。このことから、十三の王家とは②の者達であり、シルビアに頼った①の者達も組み込んで、娘のエルメシアが纏め上げて興したのが、魔導王朝サリオンだったのではないでしょうか。
      そうなると、③の逃げ延びた者達は、ジュラの大森林に隠れ里を作った者達となります。ドワーフ王国の“夜の蝶”に出稼ぎに出たり、奴隷商会に捕まっていたりしたエルフ達も③に含まれると思われ、現在はリムルの計らいにより迷宮95階層のお店で働いているといいます。
      ④の黒妖耳長族となった者達は、混沌竜の瘴気により呪われた者達であり、元超魔導大国の王女にしてのちの“呪術王”カザリームとなる人物に率いられ、現在の傀儡国ジスターヴとなる土地に移り住むことになります。

      より細かく話せばもっと長くなりますが、以上がエルフの歴史、サリオンの起源についての考察になります。
      冒頭のミリムのお伽話に話を戻すと、この物語は禁忌とされる禁書に記され、サリオンの秘された図書館に一冊だけ置かれていました。誰が書いた書物なのか、ということは推測の域を出ませんが、サリオンの起源に直接関係するミリムの暴走について書かれた書物があっても不思議ではなく、それを天帝の血縁であるエレンならば閲覧することが出来たため、エレンは太古の出来事を事細かに知っており、内容が漏れたということも消去法でエレンだとすぐにバレることになってしまった、ということではないでしょうか。

      物語本編ではエルフの歴史については、大きくシルビアとカガリの口から語られています。カガリは超魔導大国の王女、つまり元風精人でありシルビアとは“サリオン”という人物の存在を抜きにしても大きな関係があります。
      彼女視点から語られるエルフの歴史や、シルビアとの会話のシーンは、そんな複雑な背景を加味すると彼女に対する見方がまた変わるような良い演出だと思います。